24-06-27 : となりの弁護士「『地域手当格差をなくし裁判官の良心を取り戻す』訴訟」(弁護士 原 和良)

1 裁判官も国民である。国民の一人として裁判を受ける権利がある。しかし、現職の裁判官が当事者として裁判に訴えた例を聞いたことがない。7月2日、竹内浩史裁判官(津地方裁判所部総括)が、国を相手に名古屋地裁に提訴をすることになった。
2 去る4月16日、竹内裁判官は、提訴の意思を表明し、各マスコミで以下のような内容で大きく報道された。「津地方裁判所の現役の裁判官が、地域手当の支給割合に格差があるため転勤によって実質的に給与が減ったのは裁判官の報酬の減額を禁じた憲法に違反しているなどと主張し、国に対し、減額分の支払いなどを求める訴えを起こす方針を明らかにしました。現役の裁判官が国を相手に裁判を起こすのは異例です。」
3 訴訟での主張のポイントは、以下のようなものである。
  (1)地域手当は憲法80条2項にいう「報酬」にあたり、減額は憲法に反する。
  (2)裁判所法48条の、裁判官は「意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。」との保障にも反する。
  (3)地域手当の地域間格差の設定に合理性がなく、憲法14条(平等原則)に反する。
  (4)原告の昇給差別は憲法14条に違反する。
4 本訴訟の意義は、(1)憲法で報酬が減額されないとされている裁判官にあっても、地域手当により大きく減額されている実態があること、(2)公務員全般に適用されている地域手当には大きな地域間格差があり、その格差が不合理であること。(3)ヒラメ裁判官でない良心的な裁判官は、転勤で地方回りをさせられ大幅な減収となっている実態があり、地域手当の格差は、まさに裁判官統制の大きな役割を担っていること。(4)上記を解消し、国民の生活を豊かにし、司法の独立を取り戻すこと。
5 近時、最高裁は、下級審の裁判官の多くがその責任を断罪した福島原発事故について、国の責任を否定するなど、首をかしげる判断が目立つ。
  「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」(憲法76条3項)。しかし、今、裁判官の独立と良心が危機にさらされている。公平で正義が貫かれる裁判所と裁判官の存在は、社会正義と人権を守る上で不可欠である。
  竹内裁判官は、最近「裁判官の良心とは何か」(LABO)という本を出版しベストセラーとなっている。また、「弁護士任官どどいつ集」というブログを開設し、司法の問題や裁判官の日常を発信している(https://blog.goo.ne.jp/gootest32)。ぜひ、覗いてみてほしい。

以上

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