1 今年は、NHK連続テレビ小説「虎に翼」が話題になった。司法の民主化にとって半世紀以上前からのブルーパージは、今も大きな負の影響を残している。
11月6日、法務省は今年度の司法試験合格者を発表した。昨年より189人減の1592人の合格者数である。全体の受験者数は、3779人で、合格率は42.12%である。受験回数でみると、1回目合格が1211人、2回目合格が296人と合計で1507人と全体の94.6%を占める。
女性合格者は481人と初めて30%を超えた(30.21%)。
2000年以降の司法改革は、果たして日本の法曹界、司法の民主化にどのような影響を及ぼしたのか、そして今度どのような改革を目指すべきか、大きな岐路に立たされているように思える。
2 司法改革以来、裁判官や検察官の数はほとんど変化していない(裁判官数は2000年2213人、2021年2797人で1.26倍、検察官数は、2000年1375人、2021年1967人で1.43倍)。増加し続ける法曹の大半は、弁護士人口の増加につながっている。2000年の弁護士登録者数は1万7126人であったが、2024年11月1日現在のそれは、4万5665人と約2.66倍となり、2045年には6万3593人と約3.7倍に増加すると想定されている。
そのような中で、最近顕著になっているのが、東京一極集中の加速化とともに、弁護士の業界内での経済的格差の拡大と日々経済的弱者の救済や人権侵害の救済に取り組んできたいわゆる「マチ弁」の窮乏化である。
700名を超える所属弁護士をかかえる西村あさひ法律事務所以下の5大法律事務所の所属弁護士数は、3115名(2024年4月1日現在)で、青年法律家協会の会員数約2500名を優に超える。
日弁連の統計によると、1990年の弁護士一人あたりの平均収入(売上高)の中央値は2355万円であったのが、2020年には1437万円と約4割減、2020年の所得の中央値は770万円(1990年の所得中央値は統計なし)となっている。70期代の所得の中央値は、461万円(2020年)となっている。
デジタル化の中で、紙の新聞や印刷業が衰退していったのと同様に、今のままではマチ弁は斜陽産業となりかねないと危惧している。弁護士になっても食べていけるかわからないという不安から法学部とロースクールの志望者が激減し、その結果司法試験受験者数も激減している。
ワークライフバランスが重視される世の中である。残業・休日出勤なしのインハウスローヤー、給与条件が安定した企業法務中心の事務所や新興系と呼ばれるヨコ文字系の事務所に就職が殺到する現象が起きている。
3 「東京電力の変節」という後藤秀典氏のルポルタージュで、最高裁、国、東京電力、ビッグローファームの親密性が暴露され、話題になった。
福島原発事故に関し、国の規制権限不行使の責任を免罪した2020年6月17日の最高裁不当判決は批判しても批判しすぎることはない最低の判決である。
しかし、私たち人権と民主主義を擁護することを使命とする民主的法曹は、弁護士会を通じた民衆の利益を代表する最高裁判事の推薦、政府各機関への人材の派遣、ロースクールや司法研修所などの教育機関への関与、職務経験判事補制度への関与など、ビッグローファームがお金も労力も使って努力してきた活動をその活動量を凌駕する規模でやれてきたのであろうか。
先達たち民主的法曹の日々の努力は尊敬に値するものであり誇るべき実践である。
しかし、それは個々の法律家の個人的献身的努力である面は否めず、巨大な権力に対抗するに足る民衆のための対抗組織の構築の努力が必要とされているのではないか。
最高裁が悪い、司法改革が悪いと、愚痴を言っても世の中は変わらない。
人権弁護士が、時代の変化に適応した新たな戦略と連帯を模索し、次の世代につなげる魅力的なビジョンと実践が必要とされている。
以上