17-04-03 : 法律コラム第24回「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」 (弁護士 原和良)

原和良(東京支部)

1 帰還困難区域

  2011年3月の福島第一原発の過酷事故から6年余りが経過した。原発放射能被害は、収まるどころか、現在進行形で被害が継続拡大している。
  福島県浪江町津島地区は、約400戸、1400人が暮らす静かな地区であった。山間の地であるこの地区は、地区全体が今も帰還困難区域に指定され立ち入りが制限され居住が許されていない。豊かな農地とそこからとれるおいしい作物、阿武隈山渓からわき出るきれいな水、おいしい空気。住民たちは、自然と共生しながら何世代も地域を育て守り続けた。8つの行政区には、日々の生活を助け合う集落があり、集落では、毎年、正月の餅つき大会、行政区対抗運動会、盆踊り大会、神社例祭、老人会、子供会などの行事に多くの住民が参加していた。そこではみなが顔見知りで家族も同然のコミュニティが形成されていた。
  原発事故が彼らから奪ったものは、ふるさとそのものであり、人として生きる楽しみそのものである。

2 このまま、自分たちは、国から捨てられてしまうのか、先祖代々1000年もの間続いてきた村の歴史は自分たちの代で途切れてしまうのか?

廃村棄民を押し付ける国と東電に対し、住民らは一昨年秋、原発被害の完全賠償を求める会を結成し、国と東電に対し、村ぐるみの抵抗を行うことを決意した。現在、求める会には300世帯を超える地区住民が加盟し、裁判闘争に取り組んでいる。
 2015年9月には、第1次提訴を行い、今年5月には第6次提訴で、合計約670の原告団となる予定である。
 以下、津島集団訴訟の特徴点をあげておく。

3 原告らの請求

(1)放射線量低下請求
  原告らは、お金が欲しいのではない。失われたふるさとを返して欲しいのだ。どんなに困難があろうとも、たとえその完全回復が何世代にわたる壮大な事業であろうとも、汚した地球、汚したふるさとは、元に戻さなければならない。それが、人間として当然の義務である。
  訴訟では、第一に、本件地域について、国・東電の放射線量低下義務のあることの確認を求め、2020年3月12日までに、放射線量を年間1ミリシーベルトにまで低下させるよう請求している。
  その根拠は、
  ①地域社会という固有の環境の中で平穏に生活する権利に基づく妨害排除請求権、
  ②不法行為に基づく原状回復請求権、
  ③不動産所有権に基づく妨害排除請求権、
  としての放射線量低下請求権にある。
  期限を2020年3月12日としたのは、社会通念上、10年以上ふるさとを放置すればその復興は困難になることから、帰還準備にその後1年程度がかかることを想定し、事故後9年までに最低限の除染の完了を求めたものである。
  (原告らは除染に代えて予備的に損害賠償を請求する。汚染被害が重大であれば、除染義務も賠償責任も負わないというのは正義と公平に反する。このような不正義と不公平な扱いによる原告ら住民の受ける精神的苦痛は金銭には還元できないものであるが、あえて金銭的に評価すればその額は3000万円を下らない。)

(2)ふるさとからの乖離を強いられていることに対する慰謝料請求
  原発事故以来、原告ら住民は、自宅とふるさとに住み生活する権利を奪われた。無人の地域となった津島地区は、田畑は荒れ放題、家はいのししやハクビシンの被害にあって腐朽が進行している。
  避難生活を続ける原告ら住民には、毎月避難先の不便な生活を日々強いられる慰謝料として一定額が東電から支払われている。しかし、ふるさとを破壊され元の人間らしい生活に戻れる道を閉ざされた原告らには、単なる避難先での生活の苦痛では汲み尽くせない甚大な被害があり、それは別個に慰謝されるべき精神的損害である。
  予定される訴訟では、除染義務が履行され、ふるさと回復のめどが示されるまでの間、毎月の避難先慰謝料の支払いに付加してやむにやまれず、ふるさとから乖離されたことによる精神的慰謝料の支払いを請求する。

(3)被爆による健康不安慰謝料
  2011年3月11日午後7時3分、国は、福島第一原発について、原子力緊急事態宣言を発令した。翌12日午前5時44分、国は福島第一原発から半径10キロメートル圏内の住民に対して避難指示を出し、これを受けて、浪江町災害採択本部会議は、原発から25キロ以上離れた津島地区への避難を呼びかけた。これを受けて約8000人の町民は、津島地区へ避難を行った。津島地区の住民は、12日から15日の間、流れ込んでくる浪江地区その他の住民の受け入れにあたり、地域ぐるみで宿泊所の確保、炊き出し、などに協力した。ところが、後日、この4日間は、福島第一原発から放出された高線量の放射能は、山間の地域である津島地区に吹きだまり、人々の身体を危険に晒していたことが明らかにされた。国や東電は、SPEEDIのデータによりそのことを把握していたにもかかわらず、「公表すると現地がさらに混乱する」という理由で、危険の告知を怠り、住民らに多大な被害をもたらした。その中には、放射能への感受性が高く、将来、甲状腺ガンになる危険が心配される成長期のこどもたちもたくさん含まれている。
  安全配慮義務を欠いた国と東電の棄民行為に対して、被害住民らは、被爆慰謝料を請求する。 

4 すべての原発訴訟での勝利と被害者の救済、ふるさとの奪還を

(1)津島の住民の提訴は、原発事故の責任をとらず、ふるさとと人間破壊の棄民政策に対して、地域ぐるみでその責任を問う津島訴訟は、日本経済のあり方、原発政策そのものを問う新たな裁判である。それは、人間の手で制御が不可能な技術に対して人類はこれからどう向き合うべきかを世界に問う裁判でもある。
    今、国、東電が行うべきなのは、取り返しのつかない被害をもたらした原発推進政策を真摯に反省し、被害者に謝罪し、被害の回復に全力であたることである。被害回復、原状回復の見通しもないままで、原発再稼働を行うことは、絶対に許してはならない。

(2)既に、福島原発事故の被害賠償をめぐっては、全国各地で集団訴訟が取り組まれておりその原告数は1万人を優に超えている。また、各原発施設の存在する地域では、原発の稼働を許さない差止訴訟も取り組まれている。
   私たち津島地区の訴訟は、これら先行する訴訟とその目的を共通にするものであり、共通の敵に対するたたかいである。巨大な敵に対しては、その違いを超えて連帯を強めていくことなしに勝利はあり得ない。
   津島集団訴訟は、先行する訴訟に遅れて提訴した訴訟である。今年3月17日の前橋地裁判決を含め、先行する訴訟の到達点に学びながらすべての被害者と、すべての被害者及びその救済運動と連帯をしながら、原状回復と被害の完全賠償の実現に取り組む所存である。

以上

   

(自由法曹団5月集会報告集原稿)

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