17-12-07 : となりの弁護士「インドを視察して」(弁護士 原 和良)

1 インドは、おそらく大半の日本人にとって、地理的にも文化的にも心理的にも遥かに遠い国である。飛行機で、成田から首都デリーまで12時間もかかる。アジアの国々と比べても地理的にアジアの向こう側にある国であり遠い。地理的には、ヨーロッパやアメリカも遠いがそれ以上に文化の違いが遠さを感じさせる。仏教徒の国であるタイやミャンマーと違い、インドはヒンドゥー教が国民の80%以上を占める国であり、食文化も違う(牛肉や豚肉は一切食べない)。顔の輪郭に親近感を覚えるアジアの民族と比べ、彫の深いアーリア民族の多いインドの人たちは、とてもエキゾチックな民族である。

そんな、遠い国のインドに縁あって、11月初旬、視察旅行に行ってきた。中小企業家同友会の国際ビジネス支援部の呼びかけた視察旅行である。今回は、現在のインドの状況と日本のビジネスにとってのインドの魅力について報告したい。

2 インドのシリコンバレー:バンガロール

最初に訪れたのは、インド南部の都市、バンガロールである。人口800万人の南部最大の都市であるが、ここはインドのイメージを刷新する町である。インド人は、数学に秀でその才能を生かし、世界のIT産業分野で突出した技術者や経営者を輩出している国である。バンガロールは、IT産業のトップ企業が研究施設を有するハイテック都市であり、マイクロソフトやアップルなどの米国IT企業をはじめ、世界各国からIT技術者が集結しているインドのシリコンバレーと呼ばれている都市である。私たち視察団は、インド第2位のITトップ企業本社を視察し、最先端のIT技術研究を目の当たりにした。本社はゲートで厳重に入場が規制され、中に入るとまるでそこは、大学のキャンパスのような雰囲気。高収入が保障されるIT労働者のために、街には新興住宅街の開発が進み、高層マンションが立ち並んでいた。

また、バンガロールでは、日本との経済交流・文化交流を進めるNPO法人サクラインディアファウンデーションに参加する企業のみなさんともビジネス交流会も企画され、日本とインドの今後の交流の発展につながる貴重な機会をいただいた。

(サクラインディアファウンデーション)

3 グルガオンの巨大ショッピングモール

2日間の視察日程を終えて、私たちは首都デリーに移動した。一日目の午後は、空港から直接、デリーの郊外の新興住宅地にある巨大ショッピングモール(地方にあるイオンモールをイメージしたらいい)である。日本との物価の格差もまだまだ大きく、また貧富の差は日本では比べものにならないくらいインドであるが、このショッピングモールでは、映画館、スケート場、高級日用品、購入家具などがほとんど日本の価格と同じくらいの値段で売られていたのには正直びっくりした。これから生活耐久消費財が普及していくであろうインドでは、日本の精緻な製造業の技術やノウハウへの関心が高い。このショッピングモールでは、日本企業とりわけ最先端の技術や製品を有する中小企業の事務所誘致を計画しており、私もその誘致支援をサポートする予定である。

(アンビエンスモール)

4 タージマハールとアグラ

2日地目は、タージマハールのあるアグラを観光で回ることになった。当日、外国の首相が来印してタージマハールを見学するということで、入場は午前9時30分までと突如制限されることになり、私たちは、午前4時30分にデリーの民泊を出発。何とか、午前8時過ぎに入場ゲートに到着することができた。

(タージマハール)

 

5 ジュリピタス法律事務所のレセプションと業務提携契約

アグラからデリーに戻った夕方は、友人のインド人弁護士が経営するジュリスペリタス法律事務所(Jurisperitus Law Offices) のレセプションパーティにみんなで参加することになった。パーティーは、パートナー弁護士のアシッシュの私邸で行われ、日本大使館公使、在デリーの日本企業、日印ビジネスに関係するインド企業経営者など総勢50名を超える盛大なパーティーとなった。

アシッシュ弁護士から、当事務所との継続的な業務提携の提案がなされ、日本大使館公使の仲介により、ジュリスペリタス法律事務所との業務提携に関する覚書を締結するに至った。

覚書締結に先立ち、英語でのスピーチを求められた私は、概ね以下のようなスピーチを行った。

「私は、東京で23年間弁護士として活動してきました。10年前に、パートナーズ法律事務所を設立し、国内のみならずASEAN諸国をはじめ、国際的な法律業務にも取り組むようになりました。今回、中小企業家同友会の仲間とともに、はじめてインドへ視察旅行に参りました。2日間は、バンガロールでIT企業の視察と交流を行い、昨日デリーに移動しました。本日は、タージマハールを訪問し、とても素晴らしい場所だと思いました。

みなさんもご存知かもしれませんが、日本の将来的な経済見通しは、少子高齢化や人口減少などの影響のもとで必ずしも明るいものではありません。だからこそ、日本は海外に目を向けるべきだと考えています。インドは、人口13億人と日本の10倍の人口を有し、平均年齢も若い国で、無限の将来的可能性を秘めた国です。日本の中小企業が誇る技術やノウハウとインドの将来性をうまく組み合わせることができれば、両国の経済にとってこれほどいいことはありません。

ある方からアシッシュ弁護士を紹介され、この夏に東京でお会いしまし、日印の経済交流とビジネスの発展にお互いに協力することを確認しあいました。本日ここで、法律事務所間の業務提携の覚書締結の提案がありました。文書に目を通しましたが、内容には完全に同意いたします。ありがとうございました。」

(業務提携契約調印)

6 インド雑感

インドは、最先端と発展途上が共存する混とんとした国である。道路整備をはじめとした都市のインフラ整備はこれからである。都市部の大気汚染も半端ではない。カースト制度に由来する国民の貧富の格差の解消は、おそらくまだまだ時間を要するであろう。しかし、13億人の若い人口と年間7%に迫る経済成長率は、とても魅力的であり日本の強みとインドの強みがうまく結びつけば大きな成果につながるに違いない。

成熟し成長が止まったこの日本で、私たちは今後何を目指すのか、考えさせられる旅行であった。

以 上

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