1 今週のマスコミの話題を独占したのは、11月19日のカルロス・ゴーン日産会長の東京地検特捜部による逮捕(金融商品取引法違反)であった。2010年から2014年までの5年間の年収約98億円を合計で50億円低く申告し、49億円8000円と虚偽記載していたというものだ。
その桁ずれの役員報酬にも驚くが、日本を代表するトップの突然の逮捕に国内はもちろんのこと、ルノー本社のあるフランスをはじめ、世界に瞬く間にニュースがかけめぐった。
背景にあるルノーの日産子会社化の動きと日本人経営者の抵抗、日仏政府の思惑など、この逮捕劇には、様々な憶測が飛び交っているが、図に乗ったトップの脇の甘さが白日の下に明らかになったことだけは明らかであろう。
2 そして、このニュースでもう一つ注目を集めたのは、「司法取引」という日本人にとっては聞きなれない言葉と捜査手法である。
2018年6月から、改正刑事訴訟法が施行されてこの司法取引の制度が導入された(刑事訴訟法第350条の2~15)。
司法取引とは、検察当局に対して、犯罪事実を積極的に認め捜査に協力する見返りとして、自分の罪を軽くしてもらったり免除してもらったりする制度である。海外では、自分の犯罪を認めることにより罪を減免してもらう「自己負罪型」と他人や共犯者の犯罪に罪捜査協力をする「捜査・公判協力型」があるが、日本の制度は、このうち「捜査・公判協力型」のみを導入し、犯罪対象を、一定の経済犯罪、組織犯罪などに限定しているところに特徴がある。
3 この司法取引は、捜査・公判に協力することによって、自分の罪が軽くなるという誘惑から、他人に罪をなすりつけることにより「えん罪」の温床になることが当初から強く批判されてきた。通常司法取引による情報収集が必要になるのは、犯罪関与者の協力なくしては立件が難しいという事案が多いからである。
ゴーンの捜査においても、日産の複数の幹部らが司法取引に応じたと報道されている。
しかし、会社として組織ぐるみで不正を隠ぺいし続けてきたという事実は、司法取引によっても精算されるものではないし、ブランドイメージに対する大きな傷として残るであろう。
4 ゴーンと日産がこれからどうなっていくのか、しばらくこの話題はマスコミをにぎわすであろう。しかし、同じような不正が疑われるのに、森友学園問題での財務省による公文書改ざんや、加計学園の獣医学部新設問題などでは何故、司法当局は及び腰なのだろうと改めて思わせる事件であった。
以上