23-07-29 : となりの弁護士「破産する覚悟」(弁護士 原 和良)

1 今年に入り十数年来事務所と顧問契約を結び支えて来てくれた中小企業を含め会社と経営者の自己破産の申立の相談を立て続けに受けている。
  世の中では、不正を働いて巨利を得て一世風靡していた会社とその経営者が、社会的な指弾を浴び没落していく光景もよく目にする。しかし、私が受けている相談は、まじめに経営してきてやるべきことをやりつくしたが、いったん破産手続で整理せざるを得ない事案がほとんどだ。

 

2 全財産を投じて事業に取り組む中小企業の経営者は、常に破産・倒産と隣り合わせで生きている。また、その覚悟がないと、中小企業の社長は務まらないのが今の日本の現状だ。
  事業が上手くいくかどうかは、経営者の才覚や責任の問題であることはもちろんだが、どうしようもない外部環境の変化や想定外の事故で事業が上手くいかなくなることは、ある意味不可避である。
  その薄氷を踏むがごとき緊張感、リスクを楽しめるかどうか、経営者としての資質の一つであろう。
  破産に向き合う私の経営者依頼者たちは、何故かとても冷静で達観している。やり遂げた結果が破産であればそれは変えられない現実であり、それを受け入れる覚悟ができている。

 

3 そして、そのような達観した経営者は、人間として魅力があるので、破産しても実はあまり困らない。破産で人は死ぬわけではないし、その人の人間力や逆境を乗り越えてきた経験は残ったままである。全力を尽くして破産した人には、手を差し伸べる人が必ずいるものである。
  事業で失敗した経験は、新たなスタートに向けた強みでもある。それは、年齢を問わない。
  ヘレン・ケラーは、次のような名言を残している。
  「ひとつの幸せのドアが閉じる時、もうひとつのドアが開く。しかし、よく私たちは閉じたドアばかりに目を奪われ、開いたドアに気付かない。」(When one door of happiness closes, another opens; but often we look so long at the closed door that we do not see the one which has been opened for us.)

 

4 これは何も、事業経営やビジネスに限ったことではない。
  生きていれば、人生の3大困難(仕事とお金の困難、健康問題の困難、人間関係の困難)は、予期せず、例外なく、すべての人に訪れる。それをどう受け止めるのかは、その人次第である。
  自分を信じて前を向いて生きている人には、必ず次のドアが開いている。

 

以上

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