14-06-30 : となりの弁護士「これで日本はグローバル社会で尊敬される国になれるのか」(弁護士原 和良)

1 2020年オリンピックを受け入れた日本の首都東京。その首都の都議会で何とも時代錯誤の事件が起きている。6月19日、少子化問題、女性の晩婚化、子育て支援について質問をおこなった女性議員に対して、「お前が早く結婚すればいいじゃないか」「産めないのか」という汚いヤジが飛んだ。声が出たのは自民党議員の席からであるそうだが、都議会自民党は議員を特定する調査はやらない方針という。議場にいた舛添知事は、笑みを浮かべて黙って見ていたという。

2 ジェンダー先進国であるアメリカやカナダでは、女性に対する性差別に対して、厳しい批判の目が向けられ、社会的制裁が課される。遅れた日本企業は、痛い目に遭った。

1996年には、米国三菱自動車の多数の女性が、職場環境が性的に耐え難い状態にあるとしてセクハラや昇進昇格などの女性差別を受けたとして米雇用機会均等委員会に申立を行った。同委員会は、三菱自動車を提訴。98年に、同社は総額3400万ドル(当時の円換算で約49億円)の和解金を払うことになった。

さらに、2006年には、北米トヨタ自動車の社長秘書であった日本人女性が、同社社長からセクハラ被害を受けたとして会社及び社長個人に対して総額1億9000万ドル(約200億円)の損害賠償訴訟を提起した。和解内容は、非公開であるが、莫大な経済的損失を負ったことは間違いない。

3 日本でも、セクハラ・パワハラに対しては、企業のリスクマネッジメントという観点から、取り組んでいる企業も増えてきており、私も、セミナーを依頼されたり、実際のトラブル相談事例も多い。しかし、根本の人権思想と社会の成熟度の驚くべき遅れが今回の事件の根底にあるように思われる。元知事は、出産適齢期を過ぎた女性に対して「生殖機能をなくしたババアに、存在意義があるのか」などという発言をして、損害賠償請求訴訟を起こされているし、性的少数者に対する差別発言に対しては、日弁連が、今年4月に警告を出している(http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/complaint/year/2014/140422.html)。

今回の事態に、都議会がどのような対応を取るのか、また日本社会がこの問題をどのように克服していくのか、オリンピックを受け入れる国として問われている。

4 グローバル化、多様化社会に入った中で、今の人権問題の最先端の議論は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセシュクシャル、トランスジェンダー)などの性的少数者や弱者に対する配慮である。

ゲーム大手の任天堂は、人間型キャラクターが結婚、子育てなど架空の生活を楽しむ「TOMODACHI LIFE」というゲームソフトを開発し世界で販売しているが、米国在住の同性愛者から、「同性婚を認めて欲しい」とゲームの仕様変更を求められ、謝罪を余儀なくされたという。グローバル企業の中では、職場内での性的少数者に対する職場環境配慮義務、セクハラ・パワハラ防止措置が喫緊のテーマになっている。

日本は、少数者・弱者への人権的配慮・感覚が、トラック一周遅れという感がある。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2014年6月号掲載)

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