先週、中小企業経営者と一緒に、千葉県山武郡にある大里総合管理株式会社という不動産管理の会社を企業訪問した。従業員数十人の小さな会社であるが、何がすごいかというと、地域への密着したサービスだ。
社長は、2代目の50台の女性社長。母親は、母子家庭で3人の娘を大学までやるために、地元で不動産事業を始めた。その事業を承継したのが社長のところさんだ。地元のお客さんが自分たちを育ててくれたと、その恩返しに様々なボランティア活動を展開しているユニークな不動産屋さんである。
十数年前、会社は大きな危機に立たされた。土地の管理事業の一環で、農道で木の伐採、搬出作業を行うためロープをトラックの荷台にくくりつけて搬出作業を行っている時、ロープに気づかずに農道を通過しようとしたバイクに乗った大学生がロープに首をひっかけ即死するという大事件が起きた。
死亡した大学生は、自分と同じ母子家庭で育った大事な息子で、地元の大学4年生、就職も決まって、母親は喜んでいた矢先の悲劇である。
この時、社長は、自分の4人目の子どもが命を落としたのだと考えて、この子のために自分と会社はどんな償いができるだろう。いい会社を作って地域社会に貢献することが会社の使命だと自覚する。
無縁社会が話題になっているが、会社は、社員の発案を取り入れて150ものボランティア事業に取り組む。道路の清掃、ボランティア活動、会社を解放してのカルチャー教室、とにかく地元に役立つことは何でも(かつ無理や押しつけのない範囲で取り組んでいる)。3人の子どもたちは、高校卒業後3年間は、会社でアルバイトをさせ、その後それぞれの進路を選ぶのだという。地域で育てられたことに感謝し、その恩返しをしてから高等教育を受けさせるのだという。そしてそこで学んだ成果を利他のために使う。このプラスのスパイラルが見事に実現していた会社であった。今や、地域おこしに取り組むこの会社を知らない人はいない。地域になくてはならないと住民に思われている会社。派手な宣伝もなにもないが、信頼は抜群。
モノではなく心を売る会社は、世の中の不況とは無縁な元気な会社であった。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2011年2月号掲載)