11-03-25 : となりの弁護士「おかしな刑事裁判」(弁護士原 和良)

1 IT関連のベンチャー企業を営む会社社長が、マチ金(高利貸し)に偽造の売掛金資料を見せて2000万円の融資を受けたとして詐欺罪で逮捕起訴された。

しかし、どう考えても納得のいかない起訴である。

2 まず、この事件で「被害者」であるマチ金は、不動産担保融資を専門とする高利貸しである。売掛金で貸金を回収しようとは全く考えていない。むしろ返済不能を当然予測して会社役員から不動産担保を取っていた。

社長の偽造への関与はこの事件では全く形式的なものであった。半年前から会社を事実上ブローカーに乗っ取られ、知らない間に高利貸しからの借り入れを強制され、融資がすでに決まった後である借入の前日に売掛金の資料の提出を求められた。

ブローカーの言葉に乗せられ、その偽造を了承してしまったというものである。社長は、借入を断念することを主張したが、「次の大口融資先があるのでそれまでのつなぎ融資だから大丈夫」というブローカーの言葉に押し切られてしまった。

当日、交付されたお金は2000万円、1カ月後に1000万円、2カ月後に1000万円、3カ月後に500万円という返済条件を初めてその場で知らされた。

3 そもそも、マチ金は騙されて融資をしたのではない。10年ほど前から商工ローンの高金利や脅迫的な取り立ては自殺、家族離散などの悲惨な被害を生み大きな社会問題となった。今は、出資法、貸金業法が改正され、29.2%を超える利息の貸付は犯罪行為(懲役5年以下、500万円以下の罰金)、金銭消費貸借そのものは無効である。貸し付けた融資金そのものの返還請求そのものを否定する裁判例も出ている。

貸付行為そのものが犯罪行為である。貸しつけたお金は、多額の違法な金利を回収するための「エサ」であり凶器(刑法では犯罪組成物といって没収の対象である)である。何で、そんな犯罪の道具を保護してあげなければならないのか。

4 社長は、マチ金の違法貸し付けとブローカーの被害者であり、犯罪者ではない。社会全体が違法貸し付けの撲滅に取り組んでいる時に、マチ金救済のために被害届を受理し、平穏な生活をしている市民を犯罪者として起訴する警察、検察の見識を疑う。

今月末に判決が出るが、裁判所が被害者と加害者がひっくり返ったこのあべこべの起訴に対して毅然とした態度で無罪判決を下すことを期待してやまない。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2011年3月号掲載)

Menu