10-11-12 : となりの弁護士「チリの鉱山事故、70日ぶりの生還の感動」(弁護士 原 和良)

1 暗いニュースが続く中で、地下に閉じ込められた14名が8月5日の事故以来70日ぶりに無事救出され家族と再会したニュースは、久々の明るく感動的なニュースとして世界を駆け巡った。

思えば、2000年の9.11事件以来、戦争、殺戮、リーマンショック以降の世界同時不況と世界には暗いニュースが続いていた。国内でも、不況、倒産、自殺、凶悪犯罪、とニュースと言えば暗いもの、陰惨なものとの記憶が我々の脳裏に焼き付いてしまったようだ。

2 2つの点でこの感動的ニュースを受け止めた。

一つは、無事生きているということの当たり前の尊さである。空気が吸える、太陽の光が当たる、水が飲める、空腹を満たす少しばかりの食料がある、そして、自分を励ましてくれる家族がいる。この我々には当たり前の生存環境のありがたさが、地下のお琴たちはおそらく何物にも代えがたい幸福と感じたことだろう。我々は、このような幸福が満たされると、あたかもそれは所与の前提として意識もせず当然のものとして享受した上で、自分に不足しているものを求め、それが容易に手に入らないことに苛立ち、不満をいい、他人をねたみ、自分は不幸だと感じてしまう。

そんな、傲慢な自分に気づかせてくれるニュースだからこそ、世界の人々が感動するのだろう。

3  もうひとつ、この鉱山は、もともと大変危険な鉱山で、誰も山に入りたがらない山だ。そのため、賃金は他の鉱山よりも高い。家族のためにあるいは生活上の必要性から、少しでも高い待遇を求める男たちが、危険を承知で山に入っていた。我々は、この鉱山で取れる鉱石によって、文明の恩恵を被っている。世界中の人たち特に先進国の市民生活は、このような底辺の世界の人々の労働と犠牲の上に成り立っているということを改めて気づかせてくれた。

4  実は、この1週間の間に、人身事故による電車の停止、大幅遅延に4回も遭遇した。1回は、線路に電車が停車し閉じ込められた。いろいろうまくいかないことがあっても、無事生きていることの貴重さが実感できず、自ら命を絶つ人が何と多いことか。また、仕事がら不幸にも事件の中で命を絶ってしまう人にも残念ながら遭遇する。

1人は万人のために、万人は1人のために…。生きて還してあげようという多くの人々の願いが通じた奇跡。改めて生きる意味や生活、家族というものを考えさせられたニュースであった。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2010年11月号掲載)

 

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