20-01-30 : となりの弁護士「日本の裁判官と伊方原発差止め決定」(弁護士 原 和良)

1 2020年1月17日、広島高等裁判所は、現在点検停止中の愛媛県西宇和島郡伊方町にある伊方原発3号機について、運転を差し止める決定を出した。

おやっと思って、調べてみたら、森一岳裁判長森裁判官は、今年1月25日に65歳となり定年を迎える。定年直前だから目立つ判決を出したのか、定年直前だから初めて自分の出世を気にせずに良心に従ってこの判決を出したのか、そこはみなさんのご想像に任せるしかない。

2 ちょうど、私は、自著の出版の関係で、小説裁判官「法服の王国」(黒木亮・産経新聞出版)を読んでいる途中であった。この小説は、裁判所版の「白い巨塔」と言われている小説である。最高裁判所を頂点とする裁判所の裁判官統制の実態を暴く、戦後の実話もふんだんに取り入れた小説で、私の知っている裁判官や弁護士なども随所に登場する。戦後自民党政府が憲法9条や基本的人権の保障をうたった現行憲法を換骨奪胎しようという動きを史実に照らして克明に告発した小説でもあり、憲法と良心のみに拘束され忠実に裁判を行おうとする裁判官たちが、冷遇され差別されている状況が描かれている。ブルー・パージと言われる負の裁判所の歴史として有名で、私が5年間、議長を務めた青年法律家協会弁護士学者合同部会は、この負の歴史の主人公でもある。

この小説の中では、まさに今回の広島高裁の差し止めにかかる伊方原発訴訟が舞台の一つとして登場する。

3 ドイツの裁判官

日本の公務員は、国家公務員法や地方公務員法で、政治的中立性と公正らしさが求められ、私生活も含めほとんどすべての政治的行為が禁止されている。裁判官も同様である。

他方、日本と同じ敗戦国であるドイツでは、公務員を含めすべての国民に対して、政治的自由が保障され、その市民的権利が尊重される国である。裁判官は、自分の信じる政治信条の政党に所属して活動し、また、勤務時間外には原発反対のデモや座り込みにも積極的に参加する。

個人の人権や意見が最大限保障されることが、ナチスドイツの過ちを繰り返さない最大の保障であるという国民的コンセンサスがある。

4 昨年(2019年)12月20日、オランダの最高裁判所は、オランダ政府に対し、国連が提唱している地球温暖化対策の削減目標を遵守することを命じる判決を出した。

三権分立というのは、政治部門が間違った方向に進もうとするときに、それをチェックし、歯止めをかけるための制度である。今の日本の裁判所がその役割を十分に果たしているのか、注目をしてほしい。

以上

Menu