1 元々、弁護士は、紛争を法律に従って解決する職業柄、毎日毎日、理不尽な現実に直面した依頼者と接し、その解決のために頭と身体を使っている。
そのため、常に何十件もの理不尽と日々向き合っているのが私たちの日常ではあるが、コロナ禍に突入したこの2年間は、人々の不安がまん延し、寛容性が少なくなり、ますます人間関係をめぐる理不尽なトラブルが増えてきているのではないかという実感を持つ。
2 離婚や相続などの家族間のトラブル、会社組織での経営方針の対立や派閥人事、人の弱みにつけこんだ詐欺被害事件、プライド保持のための執拗なパワハラや組織保全など、もちろん一昔前もあったが、コロナ禍においてはこのような対人関係トラブルはより広く進行し、陰湿になってきてはいないか、と感じる。
3 本当は、日本社会はこんな目先の対人関係のトラブルにエネルギーを消耗しているとますます、世界の成長から取り残され、相対的な貧困が進んでしまう、そんな暇はないはずだ、もっと遠くの理想を掲げてみんな協力する必要があるのではないか、と思うのだが、直面したトラブルからなかなか人間は解放されることはないようだ。
4 理不尽な現実にどう私たちは向き合うべきなのか?今日も、理不尽な現実とたたかうあるクライアントと話す機会があった。
彼曰く、それは、最後は人間性の問題だ。どんな理不尽であっても、最後は、人は人間としての価値で周囲は判断してくれる。一時的には逆境に陥っても、それに腐ることなく自分への誠実さを貫いていれば必ず活路は見いだせるはずである。
5 ギリシャ時代の哲学者アリストテレスは、人を説得するのに必要な要素として、①エトス、②パトス、③ロゴス、という3つを指摘し、これはわれわれ弁護士の仕事の上でも基本原則となっている。
①エトスとは、人間としての品格であり、対象となる物事との関係で言えば、大義である。自分の言動には普遍的な大義があるか、ということである。②パトスとは、感情であり物事に対する情熱である。人は感情で動く動物であり、感情がなければ物事は動かない。③そしてロゴスは、論理性である。感情だけでは物事は動かない。そこに論理的な説得力がなければ物事は解決しない。
この3つが出そろって、こんなんな紛争は時間の経過とともに解決していく。
6 これからの仕事も、決して大義を見失うことなく、①エトス、②パトス、③ロゴス、を貫いて進みたいものである。
以上