22-06-30 : となりの弁護士「『朝日新聞政治部』と日本の凋落」(弁護士 原 和良)

1 知人のジャーナリストである鮫島浩さんが朝日新聞を昨年退社し、フリーのジャーナリストとして出版した「朝日新聞政治部」(講談社)という本がベストセラーになっている。
 鮫島さんは、朝日新聞を代表する政治部出身の記者で歴代の大物政治家のバンキシャを務めた政界通の敏腕記者であった。

 

2 彼の人生が狂ったのは、3.11の福島原発事故である。鮫島さんは、事故後に政府がひた隠しにしていた福島第一原発の吉田所長の『調書』を入手し、スクープ記事として発表する。東日本消滅の危機が迫っていた中で、吉田所長の指示とは裏腹に作業員の大半が第一原発から退避してしまったというショッキングな事実を暴露するもので、大きな反響が朝日新聞社には寄せられた。

 表現の不正確さについては、鮫島氏は後日釈明記事を出すことを提案したが、功を焦る会社は、これを拒否する。そのことが命取りとなり、当時不祥事として騒がれていた従軍慰安婦をめぐる「吉田証言」問題、その対応を批判した池上彰氏の評論記事の不掲載問題などで社会的批判を受ける中で、スケープゴートとして鮫島さんは「誤報」記事の責任を取らされることになる。

 

3 同じような体験をしたという辻野晃一郎氏(グーグル日本法人元代表)の書評はまさに的を射た論評である。

 朝日新聞の凋落は、他人事ではなく、日本企業いや国家を含めたあらゆる組織が凋落する理由が、鮫島さんの本には描かれていると論評する。凋落の本質は、自滅であり、変わるべきタイミングで変わることができない存在は、それが企業だろうが国家だろうが個人だろうが例外なく滅びゆく。辻野氏は、別の言葉でこれを「日本病」と呼び、①過去の成功体験から抜け出せないまま過度に失敗を恐れて現状変更を嫌い時代の変化についていけなくなること、②個人が組織や主君に滅私奉公するトップダウン型の関係性の中で染みついた受け身体質・自己犠牲体質とそれに伴う個人の萎縮や思考停止の慢性化、がその特質だと指摘する。

 

4 国の責任を免罪した最高裁判決
 2022年6月17日、福島原発事故についての国の規制責任不行使の責任が問われた4つの原発被害者訴訟の裁判で最高裁判所第二小法廷は、「事故は防げなかった」と国の責任を免罪する判決を下した。誰もが国敗訴を予想していた事件である。
 日本の凋落をまた見せつけられた瞬間であった。

 

以上

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