24-04-29 : となりの弁護士「マチ弁と『虎に翼』」(弁護士 原 和良)

1 今月スタートしたNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が大ブレークしているようだ。私も、最初は見逃していたが、周囲から大絶賛の声が聞こえて来て、再放送で追いつき、今は毎日出勤前に釘付けになっている。
  ドラマは、昭和初期に女性初の弁護士になった伊藤沙莉演じるヒロイン猪爪寅子が、男性社会の様々な偏見や差別に立ち向かい、明律大学で司法試験(高等文官試験)の勉強に挑む痛快なストーリーである。実在した女性弁護士(後に横浜家庭裁判所所長)である三淵嘉子をモデルとしており、同じ年に弁護士になった中田正子、久米愛の3名の女性弁護士も登場する。法曹界のドラマということもあって、弁護士や裁判官・検察官の視聴率は、相当高いようだ。
2 男性社会の中で様々な偏見、差別、抑圧に立ち向かい自立する女性の姿を描いたドラマであるだけに、同じ体験や同じ思いを持った女性の間にも共感を広げている。どちらかというと未だ男性社会、保守的な風土が残る法曹界にも寅子が生きた時代と共通する差別は厳然として存在するし、日本社会の多くがそうであろう。
  そして、法律を武器に女性の権利を実現しようとする寅子の姿は、多くの女性の共感を広げ、毎日の生活の励みになっているようだ。
3 今、弁護士の業界は、一つの曲がり角にある。寅子のように、法律を武器に社会を変える、弱者を救済する、という多くの法律家を目指した初心を貫くことが困難な社会的状況がある。
  寅子のような、法律を武器に、庶民の権利を擁護する町場の弁護士は、「マチ弁」と呼ばれることがある。しかし、現実は、よりよい待遇を求めてどちらかというと強者のおこぼれに預かる企業法務中心の大手法律事務所への「就職」が人気で、マチ弁は、絶滅危惧種だ、と自虐的に話す弁護士もいる。
  しかし、女性問題、子どもの人権、LGBT、労働者の権利、外国人の人権、中小企業の経営、公害・薬害被害者の救済、福島原発事故被害者の救済、刑事えん罪事件、…。
  これらの困難な事件を全国各地で、いわば手弁当で支えているのは間違いなくマチ弁といわれる弁護士たちだ。
4 マチ弁の危機は、わずかながら日本社会に残されている弱者・少数者のための社会的共通資本(宇沢弘文)の弱体化を意味する。
  寅子への共感は、社会にとってなくてはならないマチ弁への共感であり、私たち弁護士は、そのことに確信と誇りをもって日々の業務に従事したいものである。

以上

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