24-05-31 : となりの弁護士「認知バイアス」(弁護士 原 和良)

1 今年に入り刑事詐欺事件のトレンドは、有名人を装ったSNSなりすまし詐欺に変わっている。警視庁によると、今年1月~3月にかけての有名人なりすまし詐欺の被害総額は把握できているだけでも279億円に上り、昨年同じ時期の被害額と比べて218億円も増加している。その典型的な手口は、Facebookやインスタグラムなどに掲載したニセ広告からLINEのグループチャットに誘導するものである。SNSを利用しかつ資金的な余裕がある50代から60代が被害の半数以上を占めているという。私自身も、なりすまし詐欺に騙されてしまった方の事件を受任した。
2 自分は何億円ものお金なんて持っていないから関係ない話だと思うかもしれないが、そうではない。もともと、人間は私も含めて騙されやすい生物なのだということを理解しておくことは大事なことである。人がいとも簡単に騙されてしまう背景には認知バイアスと呼ばれる認知のゆがみが存在する。人間の脳は、本能として外界に起こる事象をできる限り短時間で処理しようという省エネ機能を備えている。すべてのことに「これは本当か?」と吟味していたら日常生活は成り立たないのである。その意味では、認知バイアスは、快適に生きていく上で必要不可欠なものといえよう。それを前提に、どうやったら人に騙されないか、を考えることになる。
3 認知バイアスの中で、気をつけないといけないのが真実性バイアスというものである。信頼している人の言葉や情報について人は無前提に信頼してしまう。有名人なりすましの詐欺手法はこの真実性バイアスを巧みに利用したものといえよう。
  もう一つは、同調圧力によるバイアスである。前述のLINEグループには、数多くのサクラが配置されている。サクラの偽情報を毎日何回も見せられると、「みんなこの投資で儲かっているんだ」といつの間にか信じ込まされてしまうのである。1951年に心理学者ソロモン・アッシュが行った同調実験は有名である(https://ideanotes.jp/psy17/)。
  治験者に1本の棒が書かれた紙を示し、3本の長さの違う棒が書かれたもう1枚の紙から同じ長さの棒を選ばせるという単純な実験である。1人で選ばせた場合にはほぼ100%正解の棒を選ぶのに、サクラを混ぜて全員のサクラに間違った答えを選択させたところ、治験者はサクラの判断に引きずられて間違った答えをしてしまうという実験結果であった。同調圧力に弱いわれわれ日本人は特に気を付けるべき実験結果だろう。

以上

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