16-06-01 : 法律コラム第22回「消費者関連法改正と今後の動き」 (弁護士 菊間龍一)

1 はじめに

5月25日,消費者契約法及び特定商取引に関する法律の改正案が可決,成立しました。この改正は,後を絶たない悪徳商法による被害からの消費者保護を強化するために,これまで議論がなされてきたもののうちの一部が法制度化されたものです。いずれの法律も多くの取引に適用されるものですので,保護される消費者側にとってはもちろん,コンプライアンスを求められる事業者側にとっても重要な改正となります。なお,施行は来年平成29年になる模様です。

 

2 改正消費者契約法

消費者契約法は,事業目的以外の個人と事業者との間で締結される消費者契約(労働契約を除く)の全てに適用されるものであるため,その適用範囲はかなり広範囲に及びます。これまでも,事実と異なることを告げるなどして消費者を誤認させたり,事務所から退去させないなどして消費者を困惑させたりした場合の取消権が認められていました。今回の改正では,取消しの範囲や期限を拡大するなど,主に以下のような改正がなされました。

 

(1)過量契約の取消し(改正法4条4項)

その消費者の生活に照らして通常想定される分量を著しく超える量の契約であることを,事業者が知りながら勧誘して契約した場合には,その契約を取り消すことができるというものです。教科書的な事例としては,一人暮らしの高齢者に高級羽毛布団を何枚も売りつける事例が挙げられますが,不要なものを過分に購入等させられるような事案に適用されることが考えられます。

現行法の特定商取引法9条の2では,訪問販売について過量契約の取消権を認めていますが,これを消費者契約法に組み込むことにより,消費者契約一般に適用させるものとなりました。

過量契約については,一つの事業者との契約のみによって通常想定される分量を超える場合はもちろん,複数の事業者との契約による場合にも,その要件を満たせば取消権の対象となります。そのため,事業者側としては,同種の契約の有無あるいは内容などを含め,消費者のニーズについて十分に確認をすることが求められます。

 

(2)「重要事項」の拡大(改正法4条5項3号)

消費者契約法では,消費者取消権の要件のうち「重要事項」について,現行法の4条4項で定義付けがされています。例えば,悪徳リフォーム業者が設置器具の性能について事実と異なることを告げて消費者を誤認させれば取消権の対象となりますが,床下を覗き込んでありもしない土台の欠陥を告げた場合には,「重要事項」について不実の告知をしたといえるか疑問が残るところです(ただし,文言上「重要事項」に該当しない場合でも,解釈で「重要事項」に含めたり,他の条文で取り消したりすることがあります。)。

今回の改正では,「重要事項」の範囲が拡大され,生命や財産等の損害や危険を回避するために必要な事情についても,不実告知との関係では「重要事項」に含まれることになりました。この点については,非常に狭い範囲の拡大にとどまったため,今後も解釈による解決や更なる適用範囲の拡大が強く求められるところです。もっとも,規制の対象となっているか否かにかかわらず,十分な情報提供のうえ消費者の理解を得ることが望ましいことに変わりはありません。

 

(3)解除権放棄条項の無効(改正法8条の2)

契約自由の大原則に則れば,解除権の放棄も一概に禁止はされていません。そのため,返品不可や解除不可といった内容の契約になっていた場合には,それが信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして無効(10条)とするのに苦労することもありました。

改正法では,債務不履行や担保責任に基づく解除権について,消費者にこれを放棄させる契約条項は,当然に無効とする規定を設けました。これまでにもクーリングオフに関する規定など,法定の内容より消費者に不利な条項を無効とする強行規定がありました。トラブルが生じた際に,もしも契約書に解除等を認めない旨の規定があったとしても,強行規定により無効とされる(したがって,解除等が認められる)ことがあるので,慎重に確認されるべきです。

 

(4)その他

消費者取消権の行使期間は,追認をすることができる時から6か月間の時効期間が定められていましたが,今回の改正によりその期間が1年間に延長されました(7条)。これにより,期間制限の点で消費者保護が拡大されたといえます。

また,改正法10条では,不作為によるみなし意思表示について,直ちに無効とすることはしないものの,消費者に不利な条項の一例として列挙することとしました。例えば,サンプル商品が無料であることのみを強調して,その後一定期間内に拒否する旨の意思表示がなければ,契約が成立したものとみなすような取引などについては,同条による無効がこれまでよりも積極的に認められていくべきでしょう。

消費者契約法は,労働契約を除くすべての消費者契約に広く適用される法律です。それほど長くもないので,第10条までは皆さん一度読まれることをおすすめします。

 

3 改正特定商取引法

特定商取引法は,訪問販売や通信販売などの取引類型ごとに,勧誘方法や契約内容に関する規制及びその効力について定める法律です。使用されている文言が異なったり,言い回しが複雑だったりしますが,消費者契約法についで広く適用されるため重要な法律です。また,消費者契約法とは異なり,行政罰や刑事罰の規定があるため,事業者にとってはより関心の強い法律かもしれません。今回の改正では,主に以下のような点が改正されました。

 

(1)電話勧誘販売に係る過量契約の取消し(改正法24条の2)

先ほど述べたように,現行法9条の2では,訪問販売による過量契約の取消権が認められています。今回の改正により,電話による勧誘による契約(電話勧誘契約)にも過量契約の取消権が認められることとなりました。

一つの事業者との契約のみによって通常想定される分量を超える場合はもちろん,複数の事業者との契約による場合にも,その要件を満たせば取消権の対象となることも先ほど述べた通りです。そのため,事業者側としては,同種の契約の有無あるいは内容などを含め,消費者のニーズについて十分に確認をすることが求められます。

 

(2)罰則等の強化

今回の改正では,まず,業務停止の期間を1年から2年に延長されました。そのうえで,法人の役員に対する業務禁止命令の制度が創設されました。例えば,ある法人が特商法違反による業務停止命令を受けたとしても,その役員が別の法人で同様な行為を行うことを阻止するためです。この制度が積極的に運用されることにより,違法行為への歯止めがかかることが期待されます。

また,行為者に関する罰則を一部引き上げて整理したうえで,法人に対する罰金の額を「300万円以下」から「1億円以下」に引き上げました。この規定は,今回の改正で導入される規制のみではなく,現行法に定めのある規制違反に対しても適用されるものです。実は,特定商取引法に関する規制を甘く見ていたという方がいるようであれば,今回を契機に施行前に点検されるとよいでしょう。

 

(3)その他

消費者契約法と同様に,取消権の時効期間が1年間に延長されました。

また,美容医療契約については,不適切な勧誘や解約等に関する消費者トラブルが増加していることから,特定継続的役務提供に関する規定を適用すべきという専門調査会の報告が出ています。今後,特商法施行令の改正により,規制の対象とされるものと見込まれます。

これまで日弁連の消費者委員会が求めていたものからはまだまだ遠く,内閣府の専門調査会で検討されていたものからやや後退してはいますが,今後も引き続き適切な規制がなされることが望まれるところです。

 

4 おわりに

消費者関連法は,消費者保護という目的のために,少しずつ改正が進められており,未だなお過渡的状況にあります。今年の10月には消費者裁判手続特例法が施行され,消費者事件に関する集団的な紛争解決手続きの運用が開始されますが,これも非常に限定的な制度であるため,今後の運用と実績に注目したいところです。

今回紹介した2つの法律以外にも,消費者関連法は多数ありますが,その制度を知らないがために泣き寝入りしている方も多いと思われます。皆さんの「これっておかしくない?」が実は法律できちんと保護されるということも少なくありません。強い規制の代わりに行使期間が限られているので,問題が生じたらすぐに相談していただきたいと思います。

また,正直事業者側にとっては,消費者保護規制は手間が増えて面倒だと思われるかもしれません。もっとも,結局は,消費者に十分な情報提供をして理解を得たうえで,その消費者に適した商品やサービスを提供してくださいということに尽きるので,規制の有無にかかわらず,これまでも行ってきた事業者も多いでしょう。何より,消費者の十分な理解を得てトラブルなく行われる取引の方が,喜んでもらい,また信頼を得ることができるので,事業者側にとっても良いのではないでしょうか。

以 上

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