国際結婚と離婚の増加
今年は国勢調査の年ですが、最も新しい国勢調査(総務省統計局、平成22年度)を調べると、国際結婚をしている夫婦の数は704641組であり、国際結婚の増加に伴い、統計はないもの国際離婚の数もかなり増えているようです。そうした中、外国人との間に生まれた子どもに纏わる様々な弁護士業務も増えてきているのが現状です。なかでも、日本にいる一方の親に対して、外国にいる配偶者・元配偶者が、親としての地位に基づく権利を主張してくるという問題は、やや複雑です。
子どもをめぐる事例
例えば次のような事例です。
アメリカ人のXと日本人のYは、アメリカで結婚し、生活を始めました。しばらくして、子どもAが生まれ、数年は、穏やかな日々が続いていましたが、Aが3歳になる頃には、XとYは、些細なことで喧嘩をするようになり、耐えかねたYがとうとう日本にAを連れて帰ってしまいました。この場合、Xは、Aに関する権利を主張するにあたり、どのような手続をとることができるでしょうか。
外国にいる一方の親ができること
日本以外の外国にいる一方の親は、日本にいる配偶者に対して何ができるでしょうか。
まず、Xは、日本の裁判所に対して、離婚裁判の提起と親権者指定手続の申立てをすることができます。日本の裁判所にアメリカにいるアメリカ人Xが裁判を提起するということを聞いて、日本で手続ができるのか心配になった人もいるかもしれません。ここで考えなければならないのは、「国際裁判管轄」(国際的に裁判を行う場合、裁判をいずれの国で行えるか)の問題です。これについて、離婚で言えば、被告の住所地国で裁判を行うことが原則となります。すなわち、Xは、日本で離婚に関する裁判手続を行うことができます。子どもに関する事件についても、原則として被告の住所地で裁判手続を行いますので、Xは日本で裁判手続を行うことになります。
もちろん、Xとしては、別途、アメリカで、離婚・子の監護者指定・引渡しを行ったり、Yに対して刑事訴追を行ったりすることもできます。
更に、Xは、在日アメリカ領事館を経由し、Yに対し、子との領事面会の要請を行うことも考えられます。ここで、領事面会とは、「自国民である子の保護の観点から面会を求め」るというものです。「子を実力で奪い返す」というような行為は、許されてはいないため、このような要望がある場合には、事前に、話し合いによる解決を模索してみることも一つの方法となります。
他には、もちろん、Xが日本の調停を利用し、話し合いを行うことも考えられます。これに関連して、「ミラー・オーダー」という制度があります。これは、外国の裁判所が、一方の親が子どもを返還することを認める決定をする際に、それに伴い当該外国の裁判所で出された子どもの監護権等に関する命令について、日本国内でも法的拘束力を持たせるため、日本の裁判所で外国の裁判所で発したものと同じ内容の命令を発することを求めるものです。
日本には、この「ミラー・オーダー」という制度がありません。
しかし他方で、外国の裁判所でなされた子どもの監護権に関する合意や命令と同一の内容を、日本の家庭裁判所においては調停合意として成立させることが認められます。つまり、日本の裁判所に、子の監護に関する合意や、命令と同一内容の事項を調停条項案とするよう求めることができます。
ハーグ条約と面会交流
これに関連して、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下「ハーグ条約」と言います。)における観点から外国にいる親のとり得る手段を考えてみたいと思います。
ハーグ条約では、①いずれかの締約国に不法に連れ去られ、又はいずれかの締約国において不法に留置されている子の迅速な返還を確保すること及び②一の締約国の法令に基づく監護の権利及び接触の権利が他の締約国において効果的に尊重されることを確保することを目的として、締約国がすべき協力や中央当局(政府内の機関)の役割などについて定めています。これをうけて、ハーグ条約を実施するために必要となる手続きなどを規定する法律として、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(以下「実施法」と言います。)が制定されています。
ハーグ条約では、一方の親と外国に所在する子が接触できなくなっている場合には、面会交流の実現のために締約国が協力することを規定しています。中でも、子の返還手続の要件を満たさないという場合でも、中央当局に対し、子どもとの面会交流の機会確保のための援助を求めることができるとされていることは特筆すべき事です(以下「日本国面会交流援助申請」と言います。同条約21条)。援助を求める際の要件として、「子の連れ去り又は留置」があったことを前提としていませんので、自分の子が、外国に連れ去られた場合のみならず、両親の合意のもと外国に子どもが行った場合でも、援助を求める(申請する)ことができるのです。
なお、実施法には、そのほか面会交流等についての詳細な手続規定はありません。これは、家事事件手続法に定められた、家事調停・家事審判の手続を利用することが可能だからです。
以上のように、ハーグ条約の観点から考えても、日本にいる子との面会交流を希望する外国にいる親は、家事調停又は家事審判の申立てをすることができる他、日本国面会交流援助申請を行うことができるのです。
日本国面会交流援助要請後の手続
それでは、日本国面会交流援助要請に伴って、日本にはどのような法的サービスが用意
されているでしょうか。以下に、外国にいる一方の親が利用できる法的なサービスを具体的に記します。
(1)日本国面会交流援助の申請を受けた中央当局は、子及び子と同居している者の氏名及び所在が不明な場合には、国の行政機関や地方公共団体等の協力を得て、それらを特定するための必要な措置をとります(同条約20条、5条)。
(2)また上記当局は、子を監護している者との連絡の仲介をしたり、ADRの機関を紹
介したりします。
(3)更に、上記当局は、希望がある場合には、弁護士紹介制度(日本弁護士連合会)、
民事法律扶助制度(総合法律支援法)を紹介したり、その他面会交流の実現等に関する、
法律に基づく制度を紹介したりします。
(4)同時に、上記当局は、裁判所を利用した手続(調停・家事審判)についての一般的
な紹介をします。その際には、証拠書類等の翻訳を支援することもあります。
(5)そして、面会交流に関する定めがされた場合には、面会交流支援機関の紹介も行い
ます。
おわりに
以上、本コラムは、アメリカ人のXの立場から子どもとの面会交流などの点について述べてみました。それらの要求があった場合、日本人Yはどう対応すべきでしょうか、しっかりした心構えと対応策が必要ですが、それらは次回に譲りたいと思います。
離婚は、自国内におけるものと外国も関連するものとにかかわらず様々な問題が生じます。ましてや国際離婚における子どもをめぐる問題、未婚のまま外国人との間にもうけた子どもをめぐる問題は複雑です。しかし、子どもに対する自己の権利について、早々にあきらめてしまうのではなく、いろいろな手段と方法を模索して、子どもと自らの人生をよりよくする方途を考えて見ることが大切でしょう。
参考文献
①『一問一答 国際的な子の連れ去りへの制度的対応―ハーグ条約及び関連法規の解説』(商事法務/金子修ほか)
②『外国人事件ビギナーズ』(株式会社 大学図書/外国人ローヤリングネットワーク)
③『Q&A 渉外家事 ケーススタディ 離婚・子ども・ハーグ事案の実務』(日本加除
出版株式会社/外国人ローヤリングネットワーク)
以 上