15-08-31 : となりの弁護士「デモと就職」(弁護士原 和良)

1 自由と民主主義を求める学生緊急行動(SEALDs)の安全保障法制反対集会の盛り上がりの中で、デモ・集会に参加すると就職に不利益になるという議論が話題になっています。この問題を法律的観点、経営的観点から考えてみたいと思います。

2 まず、内定の取り消しについてですが、内定は法律的には始期付解約権留保付きの労働契約と解釈されています。この場合、最高裁は、内定取消は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」(大日本印刷事件、電電公社近畿電通事件)としています。

最近話題になった、日テレアナウンサーの採用取り消し事件は、アナウンサーとして採用内定していた女性が、学生時代に銀座のクラブでホステスとしてアルバイトをしていたことを内定取消の理由とするものですが、上記の最高裁判例に照らすとその有効性は大いに疑問というべきでしょう。

3 試用期間満了による解雇については、三菱樹脂事件という有名な最高裁判例があります。1963年に東北大学法学部を卒業した高野達男さんが、三菱樹脂株式会社に、将来の管理職候補として採用されましたが、3ヶ月の試用期間満了に際し、本採用を拒否されたため雇用契約上の地位確認の裁判を起こした事件です。高野さんは、採用面接で学生運動に参加していたかどうかという質問をされこれを否定しましたが、採用後の会社側の調査で高野さんが大学生協の運動に関与し安保闘争の集会・デモに参加していたという事実が発覚したため、会社は、詐欺により採用されるに至ったものとして採用を拒否しました。最高裁判所は、企業には採用の自由があるのであり、特定の思想、信条を有する者をその故をもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない、と判断しました。この最高裁判決は、内外の強い批判を浴びましたが、結局会社は高野さんと和解し、高野さんは会社幹部としてりっぱに仕事をなされました。

試用期間であっても、解約権留保付きの労働契約が成立しているのであり、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」かどうかが、厳しく問われます。三菱樹脂最高裁判決は、40年以上前の1973年の判決ですが、時代の趨勢からして今もこの判決が妥当するとは到底考えられません。

4 経営という視点で見た場合はどうでしょうか。高度経済成長時代は、物を作れば売れる時代でした。このような時代において、求められる従業員とは、効率的で均質的で従順な「人物が、会社の利益拡大に最も適切と考えられていました。不合理があっても、がまんして働いていれば終身雇用・年功序列賃金のもとで一生経済的には安泰という時代が戦後の一時期(60年代~80年代)続きました。しかし、世界は新しい時代に入っています。グローバル化、多様化の中で、「羊」ばかりの企業、イエスマンばかりの管理職では、ますます世界に日本の企業は取り残されるばかりです。イエスマン経営の弊害の最たるものが、東芝の粉飾決算問題ではないでしょうか。これからの企業経営には間違いなく、イノベーションが求められています。

人種・言語を超えた取引と雇用、女性と障害者にやさしい企業経営、LGBTと言われる性的マイノリティへの配慮、が企業経営には求められています。SEALDsの集会を見ていると、運動を成功させるための、マーケィング、デザイン、プロモーション、洗練された言語、コミュニケーション能力、など、かれらこそが、停滞した日本経済のイノベーションに必要とされる能力を持った人材だと私は感じます。

以  上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2015年8月号掲載)

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