10-06-30 : となりの弁護士「詐欺師」(弁護士原 和良)

1 貸したお金は、返ってくる、というのが世の常識、常態であるが、我々は、貸したお金が返ってこないという相談を常に受けているので、人に貸したら返ってこないというのがむしろ常識になっている。
特に、今のような経済状況下では、貸したお金、売掛金、請負代金が回収できないというケースはかなりの比率で増えているようである。
期待していたもの、計算していたものが狂ってしまうのだから、そのストレスは小さくない。これが親友や親族に貸したお金となると、人間関係までズタズタになってしまう。
2 他方で、最初から返すつもりがなく、お金を出資させたり、借りたりすることを「詐欺」という。最初から返すつもりがなくお金を詐取したのであれば、刑事的にも詐欺罪になるのであるが、最初から返す気がなかったとの証明は、神のみぞ知る相手の心の中の問題だから誠に困難で、詐欺師は返す気があったが結果的に返せなくなったという弁明に抜かりない。巧妙な詐欺は、警察でもなかなか事件になりにくい。
詐欺師は、借入に当たり、契約書や借用書をつくる。そして、最初の何回かは、約束通り分割返済を実行する、しかし、しばらくするとなんだかだの理由をつけて返済を辞めてしまう。これで、本当は返す気だったが、経済状況が悪化して返せなくなった、最初から計画的ではないのだという証拠をつくる。
3 しかたなく、民事の裁判を起こすと、分割返済の再提案を行い、和解をしても結局払わなくなる。それが分かっているから、和解を拒否して判決をもらうこともある。
しかし、詐欺師というのは、判決により強制執行で不動産や預金などを差押えされることには慣れているから、決しで自分の名義で財産を持たないケースが多いのである。
残念ながら、今の法律では判決をもらっても、相手方の名義の資産がなければ判決はただの紙切れであり、豪邸に住んでいても他人名義であれば原則として強制執行はできないのである。
4 法の裏をくぐりぬけていく詐欺師に歯ぎしりをしながら、事件に取り組むケースが多々あるが、悪いことをしていればどこかでぼろが出る。そう信じて、今日も詐欺師との知恵比べが続く。
高齢者や資産家をターゲットにした詐欺事件、詐欺まがいの商法は枚挙にいとまがない。資産家でなくとももちろん、わながたくさんある。
うまい話にはくれぐれもご注意あれ。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2010年6月号掲載)

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