19-03-24 : となりの弁護士「破産者マップの波紋」(弁護士 原 和良)

(1)先月は、破産者の情報を収集し、それを検索できるようにインターネット上のサイトに掲載した「破産者マップ」が問題になりました。既に、破産者マップは、批判を受けて閉鎖されているようです。

日本では、破産手続開始が決定されると、その情報が官報に掲載されます(破産法第32条)。

一見すると、破産手続開始の情報は、国が公表し誰でもアクセスできる情報であり、その情報をそのまま・・・・二次情報として提供するだけであり、何の問題もないかのように見えます。

 

(2)しかし、実際は、官報など一般的には誰もチェックしていないし、弁護士のもとに破産申立ての相談に来る依頼者は、他人に破産の事実が知られることを一番恐れています。そんなときに、弁護士は、「官報に掲載されますが、一部を除いて通常見る人はいません。戸籍にも載らないし、普通の生活を継続することができます。」といって破産者の不安を払しょくします。

破産手続開始の官報掲載は、もともと破産者の制裁のためにあるのではなく、債務者の破産の事実を公告することにより、当該債務者の債権者に債権届出や異議申立ての機会を付与するというための制度であり、破産者をスティグマ化(差別的なレッテル張り)するための制度ではありません。破産者マップは、明らかに破産手続きにおける公告制度を悪用した個人情報の侵害的な濫用といえます。

 

(3)この問題の法律的な論点や弊害については、既に様々な法律家が取り上げており、また、被害救済のための弁護団も立ち上がっているところであり、深く触れるつもりはありません。

もともと日本は、再チャレンジが難しい社会文化であり、破産に対するネガティブなイメージが強く存在しています。それに加え、私は、破産者マップが登場する時代背景や社会背景にこそ着目をし、また、その現象に危惧の念を禁じ得ません。

すなわち、今、日本の社会は閉塞感に覆われ、格差が拡大し、展望の見えない状況が続いています。このような中で、社会の中に異質なもの、弱い者、を見つけ出し、それをスケープゴートに見立てて、批判の的にし、そのことによって、憂さ晴らしをするという短絡的で、非人間的な思考が表れているとみることができるのではないでしょうか。

スケープゴート化は、現実からの逃避であり、健全な思考の停止にしかならず、本来解決すべき社会問題はそのことによってますます深刻化するだけであると考えます。

 

以上

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