19-04-24 : となりの弁護士「別荘管理委託契約をめぐる訴訟~民法改正で神風が吹く?」(弁護士 原 和良)

1 別荘地の管理問題をめぐる紛争

全国の別荘地の管理委託契約の解除をめぐる紛争は、どんなに管理費が高くても、提供されるサービスと管理費額との間にギャップがあっても、なかなか裁判所は解約を認めようとしない。

私は、この十数年、この問題で全国の別荘所有者から相談を受け、いくつもの訴訟に取り組んできたが、1勝20敗の惨憺たる状況である(1勝は、南箱根ダイヤランド判決 判例タイムズ1336号169ページ)。

 

2 過去の判例

裁判所が、頑なに任意の解除権を排除する理由は、「受任者の利益のための準委任契約」という判例理論である。委任契約に関する民法の規定は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」(第651条1項)と規定し、法律行為を含まない契約(準委任契約)にもこの規定は準用される(第656条)。

しかし、過去の判例は、「委任者のためのみならず、受任者の利益のためにも締結された委任契約は、やむを得ない事情がなければ解除できない」として、別荘地の管理契約は受任者の利益のためにもする準委任契約だと認定し、解除権を認めない。また、「やむを得ない事情がなくても、解除権を放棄したものと解されない事情があるときには委任契約を解除できる」と判例はいうが、別荘地の管理契約には、解除権を放棄したものと解されない事情は存在しない、として解除権を認めない。

これは、背景には、管理契約の解除を認めると、次々に不心得者がこれに続き、別荘地管理が混乱するのではないか、解除して得をするフリーライドは認めない、という利益衡量・価値判断があることは間違いない。

 

3 自由な解除権を認める新民法651条

2020年4月1日に、改正民法が施行される。新民法第651条は次のように規定する。

 1項 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

 2項 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事情があったときは、この限りではない。

     一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

     二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任契約を解除した時。

すなわち、立法者意思は、受任者の利益をも目的とする委任契約であっても、解除は無前提に認めるべきである、というものであり、それにより受任者が不利益を被るのであれば、受任者の側が立証して損害賠償をすればよい、というものである。

 

4 立法が、別荘管理問題に終止符

これにより、2020年4月1日以降に締結される別荘地管理契約は、(もしこれが裁判例のいう準委任契約であるとすれば)いつでも理由なく任意に解除できることになる。

なお、こんなことを主張すると無責任、現場が混乱するという批判が必ず出てくる。しかし、解除を制限する判例理論は、結局何の経営努力もせずに高い管理費を徴収し、委任者の意見も聞かなければ経理情報も公開しないあぐらをかいた管理会社を延命させるお手伝いをしているという犯罪的役割をそろそろ自覚すべきである。解除権を認めてこそ初めて委任者と受任者は対等な契約関係に立てるのである。仮にそれで、現場が混乱するのであれば、それは立法又は行政的な解決、整備の問題であって司法がそれを解決しようとするからこそいびつな判決が積みかさなるのである。

今も、別荘地管理契約裁判は係属しているが、新民法施行を射程に入れたパラダイムシフトを裁判所には期待したい。

 

以上

 

Menu