19-07-28 : となりの弁護士「働き方改革とブラック法律事務所」(弁護士 原 和良)

1 昨年の国会で「働き方改革」関連法案が成立し、残業の上限規制や有給休暇の取得推進、有期雇用労働者の権利保護などの施策が不十分ながら始まることになった。

 

2 ところで、弁護士の業界は、本来法律を扱う仕事であるのに、世にいうブラック企業ならぬブラック事務所も多いと聞く。一時期の就職難は少し改善したかのように見えるが、法律事務所への就職後、数カ月で退職する新人弁護士が激増している。終電で帰宅はそもそも想定していないため、事務所の徒歩圏に住むことが暗黙の了解になっている法律事務所はザラにあるし、9時~5時勤務というのは=朝9時出勤、翌朝5時業務終了、の32時間拘束が日常という笑えない事務所もある。給料は多少いいかもしれないが、そんな働き方が長く続くわけがない。
また、法律事務所職員の労働環境や労働条件も劣悪なところが多いと聞く。

 

3 他方で、弁護士の仕事は、ここが勝負という瞬間がある。もともと徹夜には弱い私だが、そうはいっても若い頃、えん罪事件の弁論要旨を提出する際は、やはり徹夜やホテル暮らしが続いたものである。
今月も、ここ一番の勝負という事件が、複数あった。昔のように事務所に泊まり込んでの徹夜仕事はできないが、通勤時間カットのため、数日事務所近くのビジネスホテルに泊まりこむことになった。
一つは、とある顧問先業のM&A事案。借入金の整理に関し、各金融機関の思惑が交錯し、バンクミーティングが大荒れに荒れている。もう一つは、管理職労働者の懲戒解雇事件。この解雇を認めるわけにはいかないと夜中に無い知恵を絞り準備書面を書きあげる。
本当はこんな働き方はない方がよいのだが、この職業を選択した以上、事件を引き受けたものとして依頼者の最善の利益を追求するのであれば、受け入れるしかないと覚悟を決めている。
処置をすれば助かる患者が目の前にいるのに、時間だからといって家に帰る医者はいないのと同じだ。
こんなに苦労して必ずいい結果が出るわけではないが、依頼者は見てなくてもベストはつくしたいし、やることをやりつくしたという職人としての充実感は格別のものである。
それは、誰かに働かされているのではなく、自らの信条と意思に基づく仕事だから、どこかで必ず報われる苦労ではないかと思う。

 

以上

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