20-08-30 : となりの弁護士「半澤直樹と日本人サラリーマン」(弁護士 原 和良)

1 池井戸潤原作の小説が原作となったドラマ「半沢直樹」が人気で、25%を超える視聴率だそうだ。2013年に放映された同ドラマのリバイバルであるが、池井戸潤の小説「オレたちバブル入行組」や「ロスジェネの逆襲」がベースとなっている。

これらの作品は、大企業が小説の舞台となっているが、池井戸潤は、「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」「七つの会議」など中小企業をテーマにした小説も大ヒットさせており、ドラマ化されている。

 

2 池井戸氏の小説のテーマは、企業小説を通じて日本社会、日本の企業文化の弱点をあぶりだし、それを面白おかしく描きながら、大企業の不条理にあがらうサラリーマン、中小企業の経営者の姿を描き出し、それを応援することが一貫したテーマとなっている。

中小企業経営者の中にも、池井戸ファンは多い。

裏を返せば、企業社会における不条理は、どこの会社にも存在し、出る杭は常に叩かれるという日常がある中で、その不満を空想の小説やドラマの中で痛快に跳ね返しているストーリーに皆が胸のすく思いになり、明日からも不条理の中で歯を食いしばって仕事をしようというエネルギーをもらっているのであろう。

 

3 日本では、社会と企業のイノベーションができないまま、「ジャパン アズ ナンバーワン」と言われた時代から30年の歳月が経とうとしており、IT化や生産性向上の観点から見るともはや「先進国」の地位から脱落しつつあるのが現状である。

IT化の遅れは、私たちがいる司法界でも、お笑いのレベルである。政治や行政の分野もしかりである。

 

4 しかし、翻って生産性とは、誰のための生産性、効率性なのか、という問いを忘れてはいけないと思う。労働の生産性があがってもそれが、働いた労働者や中小企業の利益や幸福に結びつかないのであれば、単なる搾取の強化でしかない。

日本社会や日本の企業文化が、異論や新しい調整を受け入れる寛容性がなければ、いくらIT化が進んでも、イノベーションは起きないであろう。

生産性向上を叫びながら、半沢直樹がたたかわざるを得ない組織内での出世競争、ごますり文化が残されたままでは、日本社会は変われないであろう。

コロナ禍で企業が変革を迫られる中、本当に変革しなければならないのは、テクニカルなIT化だけではないことを私たちは忘れてはいけないと思う。

 

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以上

 

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