21-04-30 : となりの弁護士「人を説得するための文章」(弁護士 原 和良)

1 相手を説得するための文章 
 弁護士は文章を書くことが多い。裁判所に出す訴状や準備書面、依頼者本人や証人に代わって陳述書の原稿を作成したりすることはもちろんであるが、内容証明郵便や相手方への手紙、交渉段階での法的見解や意見書作成、依頼者への報告書など、文章が書けないと仕事にならない。
 弁護士のみならず、私たちの一生は他人の説得の連続である。いかにしてこちらの思いの伝わる、名宛人が協力したくなるような文章を作成するか、日頃私なりに気を付けていることを今日は述べたい。

 

2 心の底から湧き上がるものを言葉に表現すること
 失言がよく話題になるが、失言とは実は心の底にある本音がつい出てしまった場合が多い。裏を返すと、本心とは違う着飾った文章や他人の文章から借りてきた文章は、一般に人の心には響かないものだ。本当に伝えたいことは、自分の心の底にある。心の底にある漠然とした思いを浄化して言葉にして表現をすることが大事だ。

 

3 本質を語る
 心の底にある思いを文章にするには、物事の本質をついた文章を心がけることが大事になる。以前執筆・出版した「弁護士研修ノート」「改定弁護士研修ノート」の中で、「準備書面は裁判官へのラブレター」と書いたら、業界の一部で評判になった。今でも、準備書面はラブレターだと本気で思っている。もちろん、法律文書であるから、法律的な論理は大事であるが、法律的論理で説得するには、事実を示し、それをどう評価するか、人生をかけた説得が必要となる。

 

4 簡潔でわかりやすく
 複雑に利害が絡み合った紛争こそ、シンプル・イズ・ベスト、簡にして要を得た文書作成が効果的である。要するにこの事件は、どんな事件なの?というのがワンフレーズでまとめられなければ、思いは裁判官には伝わらない。

 

5 書かないことで、行間で伝える
 言いたいことをすべて書こうとすると、結局何が言いたいのかが伝わらない場合がある。敢えて書かないことでこちらの思いを伝える、あるいは書かないことで、相手方に想像する機会を与え、時には書いてないことでイメージを膨らませてもらったり、相手方であれば恐怖心を掻き立ててもらうことも大事である。内容証明郵便を作成するときは、何を書かないか、行間に何を読み取らせるか、という文章作成の塩梅も一つの技術である。

 
6 アリストテレスの説得術の三要素
 ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を説得する技術の三要素について語っているが、彼の説得術は現代でも有効である。三要素とは、①エトス(語り手の人間性や人格)、②パトス(情熱)、③ロゴス(論理性)、である。
 どれを欠いても、説得や交渉は成功しない。みなさんの日常生活・職業生活のヒントになれば幸いである。

以上

 

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