21-03-29 : となりの弁護士「プロクルステスのベッド」(弁護士 原 和良)

1 ギリシャ神話に、プロクルステスという山賊の話が出てくる。プロクルステスは、旅人を捕まえて自宅に連れていき、鉄のベッドに縛り付け、ベッドの長さにピッタリの身長であれば命を助けてあげようといったそうだ。
 ベッドの長さからはみ出てしまう背丈の長い旅人に対しては、ベッドからはみ出した脚を切り落とし、ベッドの長さに背丈が足りない旅人は、脚を力ずくで引っ張って身体を切り裂いてしまい、殺してしまったそうだ。

 

2 交通事故事件で、人身事故の賠償請求事件を取り扱っていると、このプロクルステスのベッドの話を思い出す。特に、MRIでは客観的な損傷はないにもかかわらず、痛みが続くのが頸椎捻挫、いわゆるむち打ち症とわれるものだ。
 保険会社は、医学的統計上、6か月を経過するとそれ以上改善しない、症状固定(治療をこれ以上継続しても改善しない状態のこと。完治・治癒ではない)になるとの統計から、6ケ月が近づいてくると、そろそろ保険での支払いを打ち切りたいと被害者に圧力をかけてくる。
 何故、保険会社がこのように期間を区切って症状固定を急かすかというと経営上の理由である。早く症状固定に同意してもらって保険での治療を停止したい、治療期間が長引くことによって休業補償や障害慰謝料の金額が増えることを抑制したい、ということから一律にこのような対応になる。本末転倒だと思うことがよくある。

 

3 しかし、症状や治り方は事故の状況と本人の身体的状況によって千差万別であり、商工統計上のデータが症状固定を決めるのではなく、あくまでも専門家である主治医の判断である。
 まさにプルクルステスのベッドと同じではないか。

 

4 同じような例は、世の中に無数にある。物事や事象をステレオタイプに理解して判断をすれば、常に多数派に紛れてコンフォートゾーン(居心地のよい場所)にいられるし、自分の頭で考える必要がないので、効率的で楽である。
 警察に捕まった被疑者は悪いことをやったに違いない、懲戒解雇処分を受けた人は悪いことをやったに違いない…。「女性が会議に参加すると会議時間が長くなる」といったあの人もプルクルステスのベッドと同じ思考である。
 考えずに多数派にいすぎると、思考は停止してしまう。自分が思考停止になっていないか、自戒を込めて、時々振り返ることが大事だ。

以上

 

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