22-08-31 : となりの弁護士「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン (案)」(弁護士 原 和良)

1 経済産業省は、今月8日、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン案」(以下「案」)を公表し、8月29日までのパブリックコメントを募集した。
(経済産業省ホームページ⇒https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/supply_chain/20220808.html)
2 案は、グローバル化による経済発展の一方で、世界には、①格差や貧困の拡大、②気候変動等の環境問題の深刻化、等の多くの難題に直面し、人権侵害がこれらと密接にかかわっていることを指摘し、我が国はこれらの課題の解決を図り、持続可能な経済・社会を実現していく必要がある、との認識のもとに日本企業に向けて発表されたでものある。
案では、「人権は、全ての人々が生命と自由を確保し、幸福を追求する権利であって、人間が人間らしく生きる権利であるとともに、生まれながらに持つ権利である。そして、その保護及び実現は、国家の責務である。」と案を発表した趣旨を高らかに宣言している。
その上で、民間企業に向けて、人権や環境を尊重した企業活動を行うことを求め、その行動基準を示している。
私は、その理念については、もちろん個々の問題で不十分点はありつつも全面的に賛成するものである。

 

3 案は、その表題にあるように、とりわけサプライチェーンについてその透明性を要求する。
サプライチェーンとは、製造業において、製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを指す用語である。かつて、発展途上国の児童労働により生産されたサッカーボール、チョコレートなどについて、子どもや貧困層の犠牲の上に安価で生産された商品を先進国の国民が享受してよいのか、そのような生産工程を経た製品で利潤をあげる企業に存在意義があるのか、ということが大きな議論となったし、最近では、ユニクロの中国の縫製工場に関するサプライチェーンが問題となったことは記憶に新しい。

 

4 日本政府や経済産業省が今回のような問題提起をするのは結構なことである。
同時に、その問題提起は、政府を構成する与党自民党にも跳ね返ってくる問題だ。国会議員は、国民の公正な選挙で選ばれなければならない。議院内閣制をとる我が国では、選挙を通じて選出された国会議員の多数を占める政党が、与党として政府を構成する。
そうであれば、国会議員が選挙により選出された過程、すなわち国会議員のサプライチェーンは公正でなければならない。しかし、①格差や貧困の拡大、②気候変動等の環境問題の深刻化、③感染症の拡大、④紛争の勃発等、社会問題を引き起こしてきた組織・団体に依拠して当選をした議員に、サプライチェーンを語る資格があるのであろうか?統一教会問題は、そのことを社会に問うている。

以上

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