1 伊藤園の「カテキン緑茶」商品のCMで起用されている「女性タレント」が、話題を呼んでいる。CMに登場しているのは実在の人物ではなく、生成AI(人工知能)によって誕生した「AIタレント」だ。今年5月に、ハリウッドの脚本家組合や全米映画俳優組合などが、AIの利用制限を求めて長期のストライキに突入したことは記憶に新しいが、ついに日本もAIとの対決・共存を巡る時代に突入した感がある。
ChatGPT技術の急速な進展によって、人工知能が、瞬く間に映画の脚本を作ってしまい脚本家の創造活動を奪ってしまう、AIによって声の再生・生成が可能となり声優の仕事は不要となる、そして俳優すらもAIによっていとも簡単に複製・生成が可能だ。
長い歴史の中で、人類が築き上げてきた芸術や文化に対する重大な危機だといえよう。
2 AI技術の進展は、何も映画やCMの世界に衝撃を与えているにとどまらない。先日、弁護士の団体で、「AIと法律実務」をテーマに勉強会を開催した。講師は、帝京大学法学部講師の長島光一氏だ。
長島氏からは、現在大学や研究者の間で問題となっているAI・ChatGPTをめぐる論争について紹介があった。大学では、学生の教育効果を上げる、その到達度を確認するためにレポート課題を課す。しかし、多くの学生は、ChatGPTを利用して高度なレポートを提出してくる。利用を制限すべきか、利用を認めた上で何らかの制限を課すべきなのか?研究者の論文に、ChatGPTはどこまで利用が可能なのか?大学においても試行錯誤が続いている。
3 ビッグデータをAI技術を駆使して分析し、社会に役立てるデータサイエンスは新しい学問分野として注目されている。災害予防や環境汚染分析、交通渋滞対策などに利用されているという。
他方、学生から収集したデータ解析をもとに、企業の内定辞退率情報(その学生が当該内定企業を辞退するかどうかの確立予想)をサービス提供した日本の会社は、これが就職差別などの人権侵害にあたるという批判を浴びサービス提供を中止するに至っている。
4 AIやAIロボットによる過誤情報による法的責任問題も議論されている。米ノースカロライナ州では、昨年9月、Googleマップの音声ナビゲーションに従って運転をしていた男性が、崩落した橋を通過しようとして死亡した事故が発生し、遺族はGoogle社他を提訴する事件が発生している。
いっそのこと、AIロボットなどに法人格を与え、ロボット自身に賠償責任を負わせようという議論がEUで始まっているようである。
AIを社会から締め出すことは不可能だろう。AIとの共存、AIの適正利用について、今後議論を深めていかなければならない。
*ChatGPTとは、アメリカのOpenAI社が開発したAI(人工知能)によるチャットサービス。ユーザーが投げかけた質問に対してAIが自然な文章で回答するため、人間を相手にしているような会話のキャッチボールが可能。
*生成AIとは、コンテンツを生成する機能を持つAIのこと。ChatGPTのような文章の生成だけでなく、画像や音楽、映像といった幅広いコンテンツ向けの生成AIが存在する。ChatGPTは「生成AI(Generative AI)」の一種である。
以上