16-09-28 : となりの弁護士「政務活動費と地方自治」(弁護士 原 和良)

1 富山市の政務活動費不正利用事件

富山市では、政務活動費(地方自治法100条14項「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。…」)を不正に利用したとして、自民、民正クラブ(民進系)の議員9名(定数40名)が辞職し、補欠選挙が行われることになった。

不正利用は、白紙領収書や偽造領収書を使っての架空・水増し報告で、前議長の不正取得額は741万円、記者会見では「老後が不安だった」とインタビューに答えている。

政務活動費の制度は、地方分権と地方自治の活性化を趣旨として、2000年の地方自治法改正で創設された制度で、それまでは、各自治体ごとに、ばらばらな運用であったものを整備したものである。

2 民主主義の学校の崩壊

憲法や政治学を学んだ人はご存知だと思うが、地方自治は近代国家において、「民主主義の学校」と位置付けられてきた。強大な中央集権国家が確立すると、国民の政治参加は、寡頭政治が進み国民との距離がかけ離れていく傾向を持つようになった。19世紀のはじめ、アメリカに渡り民主政治の実証的研究を行ったフランスの思想家トクヴィルは、地方自治を「民主主義の学校」と命名し、その民主主義的機能を高く評価した。

国民は、身近な地方自治という顔の見える地域で、自分たちの身近な社会問題・政治問題を議論し、改革し、自分たちの代表を選んで自治的にポリスを運営する。その経験によって、民主主義国家は成熟した市民が育っていくという発想である。

その意味では、今回の不祥事は、まさに「学校崩壊」といえるだろう。

3 権力分立

もう一つ、地方自治の大きな役割は、中央集権化に対抗する権力分立機能である。一般に、権力分立というと立法・行政・司法の三権が、互いに独立してチェック機能をはたして権力の暴走を止めることを意味するが、地方自治制度は、国の暴走を地方からチェックし地方の住民を守る、という位置づけを憲法上持っている。その意味で、日本国憲法上は、国と地方は上下関係ではなく、対等な関係とされている。

地方ががんばらなければ、真の民主主義は機能しないのである。

4 緊張関係の欠如

不正利用の背景には、2つの意味で、議会に緊張関係が欠如していたことが指摘できよう。一つは、国に対抗して自治を守るという緊張感が欠け国とのパイプの太さだけを自治体がアピールする傾向が強まっていることである。重要な国策に反対すれば中央から徹底的にいじめられるという構造があることである。もう一つは、この間地方政治において与野党の「なれあい」政治が続き政務活動費を有効活用して少しでもよい政策を作ろうという気風が風化してしまったことが原因であろう。

前出のトクヴィルは、こんなことも言っている‐「民主主義国家は、自分たちにふさわしい政府をもつ。」

 

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2016年9月号掲載)

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