16-05-24 : となりの弁護士「企業の不祥事を考える」(弁護士 原 和良)

1 大企業の不祥事が後をたたない。東芝に続き、三菱自動車。シャープ、ソニーの凋落など、かつて世界市場を席巻したかつてのジャパンアズナンバーワンの片鱗は全くない。その根源にあるのは、責任を取らない組織体制ではないかと最近つくづく思う

2 三菱自動車の燃費不正問題が発覚したのは、私がちょうど、池井戸潤の小説「七つの会議」を最近読み終えたばかりの時だった。この小説は、大企業の系列の中小企業である部品メーカーをめぐって、会社の利益と自分の地位の確保のために翻弄されるサラリーマンの悲哀を描いた小説である。その中でも、下請けへの発注コストの削減の為に欠陥ネジを製造させ、最後はこの不正が出世街道から外された社員の内部告発によりマスコミにリークされ、会社は崩壊していく。組織内の正義は、会社の利益、社員の雇用の確保、自分の生活のために疎まれ、歪められ、その小さな不正を許す人間の弱さが最後は社員の内部告発により会社が倒産に追い込まれるという最悪の事態を招く。

3 今、調査の争点は、トップを含めた上層部の経営陣が、この不正を果たして知っていたのか、あるいは、トップを含めた上層部には隠されたまま不正が10数年間も現場で伏せられていたのか、という点のようだ。

前者の場合、不正を知ってこれを黙認していたのであれば、弁解の余地はないであろう。日本の消費者のみならず世界をだまし続けてきたその経営責任は、厳しく問われるべきであろう。

では、後者、すなわち「私は知らなかった」で経営者と言えるのであろうか。経営トップは、すべての情報が集まるところである。経営者は、現場の耳障りのよい情報だけではなく、経営のリスクに発展しかねないバッドニュースこそ耳を研ぎ澄ます必要がある。複数人の現場幹部がこの不正には関わっているはずである。不正と知りながらその作業に携わっていたスタッフを含めると数十人は不正を知っていたのであろう。トップがその情報を得ていなかったということは、この社長ならこの経営者なら、心ある社員から、「自分が不正を直訴しても必ず守ってくれる」という信頼感すら勝ち得ていなかったことを自ら認めることになる。

4 今日、度重なる企業の不祥事の中で、コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどの言葉で、企業犯罪の厳罰化、規制強化が様々な形をとって進められている。しかし、厳罰化や規制強化のみでは、企業の腐敗はなくならない。「正論」や耳障りの悪い正義、少数意見が組織の中で許容されない風土が育つことこそが重要だと思う。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2016年5月号掲載)

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