11-04-14 : となりの弁護士「賃貸アパートでの自殺と損害賠償」(弁護士原 和良)

1 昨年は無縁社会が話題になったが、一人暮らしのアパートでの孤独死が急増している。死亡してから何日間も気づかれず、異臭に気づいた隣室の住民から大家さんに通報があり、発見に至るというケースの相談をこの間数件受けた。

亡くなった部屋のリフォーム費用や階下の部屋のリフォーム費用等の損害補償はもちろんのこと、このような物件は一般的には事故物件として扱われるため、しばらくは次の借り手が決まらないということになり貸し手側には大きな経済的痛手となる。

病死の場合は、本人に過失がないので死亡した人の連帯保証人や相続人に損害賠償を請求するのは難しい。大家さんの泣き寝入りというケースが多いのだ。

2 他方、病死ではなく貸室で賃借人が自殺したケースはどうか。この間、いくつかの下級審裁判所で判決が出ている。

リフォーム費用はもちろんのこと、自殺者に借主としての善管注意義務違反(善良な市民として貸主に迷惑をかけないように注意する義務を怠った)を認め、その連帯保証人や相続人に対し、概ね賃料の2年分~3年分相当額の損害賠償を認める判決も出ている。

自殺物件であることは、仲介する不動産業者に重要事項として説明する義務があり、一般には、このような告知を受けると借り手側は契約を躊躇することになり、またそのために賃料の減額を強いられる、売却する場合でも同様の価値の下落が想定されるため、自殺と物件価値の下落との間に相当因果関係があると裁判所は判断する(もっとも、自殺しないように配慮する義務は賃借人にはないとして賠償責任を否定した裁判例もあるが傾向としては、借り手の責任を認めるようである)。

3 私が相談を受けた例は、志望大学に入学して上京した大学生が、進路の悩みでうつ病になり一人暮らしのアパートで自殺したケースである。手塩にかけて育てた息子を失った上に、賃貸人に損害賠償を払わざるを得ないご両親の姿は見るに忍びなかった。

自殺はもちろんのこと、病死の場合も、これらの不測の事態に対応する保険制度がなく、貸し手側も借り手側も困っている。損害リスクを分散するためにも、新しい保険制度の商品開発を保険会社には研究して欲しいものである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2011年4月号掲載)

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