1 弁護士に持ち込まれるケースは、利害が180度対立する(ように見える)難しい事件・交渉ばかりだ。「敵とのコラボレーション」(アダム・カヘン著、英治出版社)の副題は、賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法、とあるが、ある意味では対立当事者とのコラボレーション(協働)は、我々の仕事には不可欠である。
同著では、チームの利益と調和を重視する従来型のコラボレーションには限界があり、対立とつながりを受容し問題解決や解決策の合意がない下でも、進むべき道を実験し、対立しながらゲームに足を踏み入れる協働の必要性をストレッチ・コラボレーションとして提案をしている。
2 同著では、政府軍と反政府ゲリラとの交渉を例に挙げているが、今や世の中には、「解決困難」な対立は山ほどある(昔もあったのだろう)。
ロシアによるウクライナ進攻、中国と台湾の関係、香港問題、ミャンマーの軍事政権による人権弾圧、日韓の徴用工事件問題の解決など、世界には「解決困難」な問題が山積しており、国内でも形を変えて実は同じ難題が山積している。
私たちの日々の企業活動や日常生活も「解決困難」は山積している。
3 私たち弁護士の下にやってくる相談は、「解決困難」のデパートである。何でこんな複雑困難な事件を引き受けてしまったのだろうといつも後悔の念にかられる。そして、やっとの思いで困難を何とか解決すると、次から次へと困難な依頼が押し寄せて来る。
もちろん、相談者の要求そのものが正義に反していたり、手を差し伸べるべき社会的大義がないのであれば依頼はお断りするのだが、弁護士として何とかしてあげなければと思うと、困難だと思いつつも、火中の栗を拾ってしまうのが、私の性分で、自分で自分の首を絞めてしまう。
4 そんな事件は、まさに敵とのコラボレーションなしには解決しないケースがたくさんある。
決定的な利害の対立を抱えながら、解決の糸口を粘り強く模索する。決して結論を急がない、感情的にならない、対立しながら実験を重ねていく、全体解決ができなくても部分的に解決できるものはないか、双方にメリットのある出口はないか、などなど辛抱に辛抱を重ねる日々が続く。
そんな時は、この苦労はいつか必ず報われるというS字型成長(23-01-30 : となりの弁護士「がんばってもうまくいかないとき~成長のS字カーブ」)を信じて、やれることを尽くすしかない。
以上