10-08-20 : となりの弁護士「企業の抱えるリスク」(弁護士原 和良)

企業の抱えるリスク

1  不況の中また旧来の経営環境の変化の中で、厳しい外部環境が経営上のリスクになっている会社、事業者は多い。

しかし、経営上のリスクは、外部だけにあるのではない。外部に劣らず、いや外部よりも企業内部にこそ最大のリスクは存在する。

2  企業内部には様々なリスクがある。企業内部での不祥事はもちろん大きなリスクであるが、中小企業の場合、労使の対立は大きなリスクであろう。

労使関係が対立すると、双方にとって大変な消耗戦となる。問題が表面化しない前に、リスクを減らす努力をすることが大事だ。

中小企業の場合、残業代の支払い規定があいまい、又は法律に適合していない会社が多々存在する。多くの中小企業の場合、解雇トラブルが発生すると、残業代の規定が不備で、解雇無効とともに未払い残業代の支払いを請求されることになる。今まで残業代なしで納得しいたはずなのに、1人に支払うと他の人との不平等が生じる。経営者からみれば、このような請求は、労働者の謀反、わがまま、嫌がらせに映ってしまう。

3  解雇は経営者の自由だと考えている経営者も多いが、労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効である。」と規定する。

労働基準法の残業代支払い義務は、強行法規と呼ばれ、たとえ労使が納得して不払いを合意しても、その合意は無効である。管理職で高給を保証しているのだから、残業代込みの給料である、という弁解も、基本給と明確に区別して残業代を明記していなければこのような弁解も法的には無力だし、見合いの残業代が明記されていても、実際の残業時間がその見合い残業代が想定している時間を超過していれば、超過部分については支払を免れ得ない(但し、残業代には時効があり、2年間で消滅する)。

不当解雇問題についての解決費用や未払い残業代の支払いは、その解決のために割く労力もさることながら、解決のために数百万円単位のお金が会社から出ていくことも多く、それだけで、一年分の利益の大部分が飛んでしまうことにもなりかねない。これでは何のために経営しているのかわからなくなる。

このような内部リスクは、セクシャルハラスメントやパワーハラスメント、社員のメンタルヘルス問題、なども同様に大きな問題であり最近とみに相談も増えている。

4  わが社は、社員と仲がいいから、解雇や残業代のトラブルの心配は無用と考えていると足元をすくわれる。どうしても、日々の業務に追われ、社内規定の整備は後回しになりがちであるが、内部のリスクを最小限にする努力の積み重ねが、大切である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2010年8月号掲載)

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