20-05-28 : となりの弁護士「命が守られ、再チャレンジができる社会を」(弁護士 原 和良)

1 日本政府の新型コロナ感染症対策には、様々な批判が寄せられている。今回の感染症は、誰も経験したことのない正体不明のウイルスであり、結果的にうまく行かないことはありうる。しかし、その時々で実行された政策が、その時点の判断として適切だったかどうかは常に検証され、批判にさらされるべきである。

 

2 既に、ホテル・観光業、飲食店、などは休業・自粛要請の下で、倒産や廃業の憂き目にあったところが増え始めている。私の周りでも、廃業のお知らせや倒産、テナント賃料の減額・解約などコロナの影響にかかわる相談も増えつつある。

国には、個人や一私企業の努力ではどうにもできないこの危機的状況に対して全力で支援を急いでもらいたいものである。

 

3 今月、弁護士向けに法人破産のセミナー(1回)、一般依頼者向けに破産制度の基礎知識についてのセミナー(2回)をZOOMウエビナーで開催してみた。弁護士向けの企画には全国から80名弱、一般依頼者向けのセミナーには30名を超える参加があった。

会社や事業をつぶさず何とかこの危機を切り抜けようという時に、破産の話などなんと失礼な、という思いもあったが、私は、破産は人生の終わりではない、また破産するとどうなるのかを知って破産しないように日々できることを努力しようという話をした。概ね好評だったようだ。

 

4 日本社会では、破産は恥、という意識がとても強くある。しかし、あのケンタッキー・フライド・チキンの創始者カーネル・サンダーは、新しい高速道路が建設されたために車の流れが変わり、レストランが破産して一文無しになった。カーネルが65歳の時である。その後、再チャレンジして今の世界的フランチャイズを築き上げた。

米第16代大統領のエイブラハム・リンカーンも40歳台前半に雑貨屋業に失敗し破産を経験している。ドナルド・トランプは、6回も自分の会社を破産させている。

日本と何が違うのか。日本では、中小企業の経営者や小規模事業者の多くは、自宅を担保に取られ連帯保証人として重い責任を負担しており、その結果、やむを得ない事業の失敗の場合にはすべてを失うリスクを負っている。欧米では、経営者個人と法人は、基本的に別物であり、企業の倒産は経済成長につきもので、破産経験は経営者の勲章でもある。

個人保証で経営者をがんじがらめにする。この仕組みこそが、日本にイノベーションが起きない根本問題であり、失敗から学んで事業に再チャレンジする道を阻んでいる。その結果、バブル崩壊後30年間、日本は世界の流れに後れをとることになってしまっている。失敗を恐れては何も新しいものは生まれない。日本は、失敗を受け入れ、失敗した人のセイフティーネットを整備し、企業家が何度でも再チャレンジを応援する政策にもう転換すべき時期だと思う。

 

以上

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